「旦那様、ただいま戻りました」
僕たちがクイーンベリーケーキを食べてたらね、そこにストールさんが入ってきたんだ。
「あれ? ストールさん、どっか行ってたの?」
でね、その時帰って来たよってロルフさんに行ったもんだから、僕、どっか行ってたのって聞いてみたんだよ。
そしたらさ、さっき話したでしょって言われちゃった。
「はい。先ほどもお伝えした通り、ニコラさんたちの服を購入しに行っておりました」
「え〜、でもさっきは後で行くって言ってなかったっけ?」
「はい。ですがあれからかなりの時間が経っているので、嘘は申しておりませんが?」
ストールさんが困ったって顔しながらそう言ったもんだから、僕、すっごくびっくりしたんだよね。
だってさ、そんなに時間が経ってるなんて思ってなかったんだもん。
でもね、そういえばあれからお水を汲み上げる魔道具を井戸にくっつけたり、魔道ボイラーの事を教えてもらったりしたよね?
それにその後もスフレオムレツやメレンゲクッキー、その上ケーキまで作ってるんだもん。
いっぱい時間が経ってたっておかしくないか。
「そっか。あれからいっぱいいろんな事やったもんね」
「どのようにお過ごしになられたのですか?」
「あのね、魔道ボイラーのお勉強をしたり、ここでお菓子を作ったりしてたんだよ」
僕はそう言うとね、ストールさんにクイーンベリーケーキを見せてあげたんだ。
そしたらストールさんは、おいしそうだねってにっこり。
「これはおいしそうですわね。数もあるようですし、ニコラさんたちの分もお作りになられたのですか?」
「うん! お菓子はみんなで食べた方がおいしいもんね」
「確かにその通りですわ。そういう事ですから、あんたたち。そろそろあきらめて入ってきなさい」
ストールさんはそう言うと、さっき入ってきた厨房のドアの方を見たんだよね。
そしたらそこから、ニコラさんたち3人が入ってきたんだ。
「わぁ! ニコラさんたち、すっごくかわいいかっこしてる」
「言わないでください。恥ずかしいんですから」
ニコラさんたちね、3人ともとっても柔らかそうなワンピースを着てたんだ。
それにね、靴もイーノックカウに住んでる女の人が履いてるような、ちょっとかかとが高いやつを履いてるんだもん。
僕はそれを見て、すっごくかわいい格好だから、キャリーナ姉ちゃんが見たら絶対私も着たいって言うだろうなぁなんて思ってたんだよね。
なのに何でか、ニコラさんはその恰好が恥ずかしいみたい。
「えー、なんで? すっごくかわいいかっこなのに」
「だってこんな服、今まで着た事なかったし……それに私に似合う訳ないし……」
ニコラさんはね、そう言うと縮こまっちゃったんだ。
う〜ん、僕は似合ってるって思うけどなぁ。
そう思いながら、ユリアナさんとアマリアさんを見てみたんだけど、そしたら二人とも慌ててニコラさんの後ろに隠れちゃった。
って事は、ユリアナさんたちも今の格好が恥ずかしいって思ってるんだね。
「ねぇ、ストールさん。僕、3人ともとってもかわいい服着てていいなぁって思うんだけど、違うのかなぁ?」
「いえ、間違っておりませんわ。ただ彼女たちは今まで冒険者としての服装でしか行動してこなかったので、このような姿になれていないのだと思います」
ストールさんが言うにはね、イーノックカウだとニコラさんたちくらいの女の人はみんなこんな格好をしてるんだって。
「ですがこの子たちはこれから、街の中で生活する時間が長くなりますでしょ? ならばやはり、年相応の服装で生活しなければ周りから浮いてしまう事になるのです」
「そっか。街の中にいるニコラさんたちくらいの女の人って、防具なんか絶対着ないもんね」
僕だって今日は森に狩りになんか行かないから、いっつも村の中できてる服だもん。
ニコラさんたちもこのお家に住むんだったら、普通の服を着ないとダメだよね。
「はい。ですから今日購入したもう一着の古着も、上下別れたものですが若いメイドたちが普段着ているようなものを選びましたし、新しく作らせているものも店のものに頼んで彼女たちにあうデザインを選んでもらいました」
「そっか。じゃあ新しいのも、ニコラさんたちに似合うのができるんだね?」
「はい。ルディーン様から多めに予算を頂きましたから、何処に出しても恥ずかしくない服装になっているはずですわ」
そっか、この3人の服もストールさんが選んだそうだし、絶対大丈夫って言うんだったらきっとニコラさんたちにとっても似合う服ができてくるんだろうなぁ。
僕はそう思いながらうんうんって頷いてたんだけど、
「いや、絶対似合いませんよ。だって私、こんなに背が高いし」
「私だって、こんなひらひらした格好、知ってる人に見られたらきっと笑われるに決まっています!」
ニコラさんとユリアナさんは、自分にはこんなかわいい服、絶対似合わないよって言うんだ。
特にニコラさんは、背が普通の女の人より高いでしょ?
だから余計に、こんなかわいい格好は似合わないって思ってるみたいなんだよ。
「私たちの中ではアマリアくらいじゃない? こういう可愛い服が似合うの」
「そうそう。私なんてがさつだから、こんな服、絶対に似合わないわ」
でもね、そんな二人もアマリアさんだけはかわいい服が似合ってるっていうんだよね。
そう言えばアマリアさん、3人の中で一番背がちっちゃいし、顔も美人って言うよりかわいいって感じだもん。
確かに今の格好は、アマリアさんが一番似合ってるかも?
でもね、そんなアマリアさんも自分には似合わないって思ってるみたい。
「私なんて地味な顔だし、それに背も低いもの。背が高くてスラっとしてるニコラの横になんて、恥ずかしくてこんな服を着て並べないわ」
自分はちっちゃいから、こんな服似合わないよって言うんだよね。
アマリアさんからすると、ニコラさんの方が背が高いから似合ってるように見えるんだって。
でもさ、僕は3人ともにあってると思うんだよね。
だからストールさんに聞いてみる事にしたんだ。
「ストールさん。3人ともすっごく似合ってると思うんだけど、ストールさんはどう思ってるの?」
「そうですね。着慣れていないせいか少々違和感はありますが、似合わないものを見立てたつもりはありませんよ」
そう言えばこの服、ストールさんが選んだって言ってたっけ。
なら似合わないなんていう訳ないよね。
「あなたたちも、今は初めて着る服に戸惑っているかもしれませんが、これからはそのような服装で生活するのです。なに、数日もすれば慣れるでしょうから安心なさい」
「本当に慣れますか?」
「それは間違いありません。わたくしだって始めてメイド服にそでを通した時は気恥ずかしく感じましたが、日々の生活の中でそれが当たり前になりましたから」
ストールさんもね、始めてメイドさんの格好をした時は恥ずかしかったんだって。
でもその恰好でお仕事してるうちに、それがいつの間に当たり前になってたそうなんだよね。
だから今はかわいい格好をしてるのが恥ずかしいって思っててもきっとすぐに慣れるよって、ニコラさんたちに向かってストールさんは優しいお顔で笑ったんだ。
今までは冒険者として、森の中を歩いていても枝などに引っ掛けて破れたりしないようにと厚手の野暮ったい服ばかり着ていたニコラさんたち。
そんなお姉さんズがいきなり女性らしい格好をさせられたのですからたまりません。
おまけにその服が選ばれた基準が、フランセン家に仕えている若い程度たちの普段着ている服です。
伯爵家に勤めているとなるとメイドとはいえその子たちは当然良家の子女ばかりですから、ある程度の審美眼は備わっているんですよね。
そんなセンスのいいお嬢様たちが着るような服を着せられているのですから、思わず隠れたくなるほど恥ずかしいのも仕方ありませんよね。